慢性的、長期的に時間が経過すると心臓を覆っている心膜が線維化、石灰化していく疾患です。
拡張障害を来し、結果的に心拍出量の低下、全身のうっ血が見られるようになります。
似た疾患としては拘束性心筋症、心タンポナーデがあり、
うっ血に関しても肝硬変が鑑別に入ります。
こういった疾患の鑑別を行うために心臓カテーテル検査を行います。
もちろん、心エコーやCT撮影なども行って診断していきます。
今回はそんな収縮性心膜炎の概要と、カテーテル検査で見るポイントをまとめます。
目次
・収縮性心膜炎とは?
心臓手術後やウイルス感染や特発性、放射線治療後などに心膜が瘢痕化して、心嚢の柔軟性が失われる疾患を言います。
心膜が炎症により線維化したり、石灰化したりすることで心臓が十分に拡張できなくなります。
そのため、進行すると心臓に血液を充満させることがでなくなるので十分に拍出できなくなり、低血圧になります。また、全身がうっ血し浮腫にもなり得ます。
ポイント
・心膜の線維化、石灰化
・低心拍出になり、低血圧
・浮腫
・原因
原因としては様々なものが挙げられます。
- 特発性、ウイルス性
- 心臓手術後(開心術後)
- 放射線治療後
- 結核感染後
などがあります。
心臓疾患が疑われる時には心エコーを行う事が必須だとは思います。
しかし、ウイルス性や特発性、放射線治療後などでは心臓疾患を疑わない事があるかもしれませんが、低血圧や浮腫が見られるときには心エコーを思い出してください。
・心エコー検査
収縮性心膜炎に対しての径胸壁心エコーはガイドラインでも推奨クラスは”Ⅰ”となっています。エビデンスレベルは”C”ですが、診断の指標にはなります。
心エコーから見られる所見
- 心膜の肥厚
- 左室後壁拡張障害
- 心室中隔の奇異性運動(吸気時)
- 心房腔の拡大
- 心室腔の狭小化
収縮性心膜炎の吸気時には静脈還流が増えて右室への血液流入が増加する。そのため、右室>左室の場合には心室中隔が左室方向に動くことがあります。
また、拡張障害なので房室弁の血流速度をみると低下している所見をみることができる。
循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン 2021年改訂版 より引用
2021年改訂版循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン (j-circ.or.jp)
・その他所見
他にも収縮性心膜炎には様々な所見が見られることがあります。
- 経静脈怒張
- クスマウル徴候(Kussmaul)
- 奇脈
- 浮腫
- 肝肥大
- うっ血性肝硬変
- 心雑音(拡張早期過剰音)心膜ノック音
- 低電位、非特異的ST-T変化、心房細動
頸静脈怒張、クスマウル徴候、浮腫、肝肥大、うっ血性肝硬変のこれらは右心不全によるものです。
クスマウル徴候とは、吸気時に経静脈怒張が増強するものを言います。
収縮性心膜炎では右室からの拍出が低下するので全身の血液がうっ滞します。その結果、吸気時に頸静脈怒張が起きます。
奇脈とは呼気時と吸気時で収縮気圧が10mmHg差が出ることと言います。
収縮性心膜炎や心タンポ、気胸、心室肥大などで見られます。後でカテーテル検査での所見でも出てきます。
・ここから「カテーテル検査」について
前置きが長くなりました。ここからカテーテル検査に入ります。
カテーテル検査で行うのは主に右心系カテーテル検査(RHC)です。
スワンガンツカテーテルを用いて心拍出量、心腔内圧を測定します。
左心系ではPIGカテーテルを用いて左室で左室圧を計測します。
ポイントとなる心腔内圧は右室、左室の圧です。
「dip and plateau」ディップアンドプラトーと言われる特徴波形が両心室の拡張期見られること。また、このdip and plateauの圧差が5mmHg未満であると収縮性心膜炎と言えます。
奇脈、左室圧の呼吸性変動もカテーテル検査から診ることができる場合があります。
ポイント
使用するカテーテル
- PIG カテーテル (LV)
- スワンガンツカテーテル(RV)
dip and plateau
”dip and plateau”は圧が一度低くなり、その後に少し上昇し、上昇した値が一時続くものです。
肥厚した心膜によって心室が拡張できなくなるので、ある一定の時に圧が等圧(プラトー)になってしまいます。
右室と左室の同時圧 dip and plateauの圧較差を比べる
右室と左室で同時圧測定を行い、プラトー部の圧較差を調べます。
進行した収縮性心膜炎では右室と左室のプラトー圧が同等値になります。おおよそ5mmHg未満の差となります。
鑑別すべき拘束性心筋症では圧差があり、RVEDP<LVEDP(定義:5mmHg以上の差)となります。
ポイント
RVEDP≒LVEDP
定義:RVEDP-LVEDP<5mmHg
RVEDP:右室拡張期圧 LVEDP:左室拡張期圧
奇脈 左室圧の呼吸性変動
収縮性心膜炎では心室圧が呼吸性に変動します。
左室圧は呼気時には上昇し、吸気時には低下します。
右室圧では呼気時に低下し、吸気時には上昇します。
この時の変動が10mmHg以上を奇脈と言います。
心房波形の変化 M or W パターン
心房圧波形も変化することがあります。
x谷、y谷が急峻に下降してM字型やW字型に波形変化することがあります。
メモ
a波:心房の収縮
c波:房室弁の閉鎖
x谷:心房への血液充満が開始される点
v波:心房への充満による上昇
y谷:房室弁の開放
ポイント
心房圧は”M”や”W"の文字になることがある
・実際の収縮性心膜炎 【動画】
youtubeに実際の収縮性心膜炎の動画がありました。
(英語ですが。)
心臓を石灰化が覆っているのが一目でわかります。
耳を澄ますと鉗子で叩いているときに「コツコツ」と音がなっています。
こんな心膜では心臓の拡張障害も納得です。
心膜剥離しようと思ったら何時間の手術になるのでしょうかね。。。
こちらの動画は収縮性心膜炎の解説をしているので英語が理解できる方はどうぞ。
・治療
治療としては心膜剥離術があります。
硬くなってしまった心膜を剥離することで心臓の絞扼を解除してあげます。
低心拍出量の状態であれば心膜剝離術を行わなければ、心不全のコントロールは困難なケースがほとんどです。
また、軽度であれば血管内ボリュームを減らすために塩分制限や利尿などで対応します。
外科的手術では死亡率が5%程度と低くないので可能な限りは手術はしないほうがいいかもしれませんね。
Ann Thorac Surg. 2017 Sep;104(3):742-750. doi: 10.1016/j.athoracsur.2017.05.063. Epub 2017 Jul 29. より
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28760468/
ガイドラインでも手術リスクは高く、効果が乏しいと記載されています。
ポイント
治療(重症度による)
・心膜剥離術
・塩分制限
・利尿
ここでは特筆しませんが、収縮性心膜炎にはタイプが3つあります。
- 一過性収縮性心膜炎
- 滲出性収縮性心膜炎
- 慢性収縮性心膜炎
治療や定義が異なるので実際の診療、治療では注意が必要です。
治療では
一過性であれば、抗炎症薬を用いて治療。
滲出性であれば心嚢穿刺を行って拡張障害の解除。
慢性であれば剝離術を。高リスクでは薬物療法。
定義では
一過性は可逆性で、時間経過で軽快するもの。
滲出性は心嚢穿刺しても右房圧が低下しないもの。
慢性は数か月持続するもの。
といった具合に3つの収縮性心膜炎があることも頭の片隅に置いておいてください。