「左室造影とは?」
意外と把握していない方もいるのでは・・・?
左室造影を行うことで左心室の形状評価が可能で、
左室造影で左室壁の動きは悪くないか、形状は正常であるかなどの評価ができます。
左室造影によって心筋梗塞や心筋炎などによる壁運動障害が観察できます。
今回はそういった心臓の評価に重要な左心室造影のポイントをまとめます。
目次
・造影するための準備
アプローチ部位, 注意
アプローチ部位はどこの動脈でも基本的には可能です。
大腿動脈や橈骨動脈(遠位を含む)、上腕動脈からアプローチ可能です。
1点注意するとしたらカテーテル選択です。
後で書きますが使用するカテーテルは基本的にはピッグカテーテルです。
このカテーテルがアプローチ部位から十分に造影対象まで届く長さのものを選択してください。
時折、カテーテル長さが届かないことがあります。
ポイント
アプローチ部位に合わせてカテーテルの長さを選択
使用するカテーテル
使用するカテーテルは主にピッグカテーテルです。
まれにマルチパーパスというものを使用します。
ピッグカテーテルはカテーテル先端が豚の尻尾のようにくるっとしていることからこの名が付いたそうです。
4~5Frのピッグカテーテルを用い、
注入造影剤量は30mL~50mL程度を8~15mL/secの速さで造影します。
撮影方向
大動脈弁閉鎖不全症の評価には「RAO30°」
上行から弓部の大動脈には「LAO60°」
胸部下行から腎動脈付近までは「正面」が適しています。
左室造影の評価の際には「RAO30°、LAO60°」で撮影します。
ポイント
主な左心室造影の撮影方向は「RAO30°、LAO60°」
左室への挿入
一般的にRAOで左室を見た時には大動脈の左側に無冠尖(NCC)、右側(RCC)に右冠尖が見えます。
LAOで見た時には大動脈の左側に右冠尖、左側に左冠尖(LCC)が見えます。
NCC: non coronary cusp, RCC: Right coronary cusp, LCC: Left coronary cusp
手順(大動脈弁狭窄症が無い場合)
- ガイドワイヤーを先行させてピッグカテーテルを大動脈弁付近まで進めます
- ガイドワイヤーをピッグカテーテル内に収納して、先端がループした状態で弁通過を試みます
ガイドワイヤーはカテーテル内にある方が操作性が良いです - 弁の開放、左室拍出時に合わせてカテーテルを押します
心電図上でR波に合わせると良いです
挿入が困難の時はLCCにカテーテルを入れて、押しながら時計回転方向に回すと入りやすいことがあります。
それでも挿入できない場合はガイドワイヤーを先に左室内に挿入してピッグカテーテルを入れるとよいです。
ガイドワイヤーやカテーテルが左室内に入った時にそれらが左室壁に当たるとPVC(心室期外収縮)が起きます。
ドキドキしますので、患者さんへの声掛けを忘れずに!
大動脈弁狭窄症がある場合
大動脈弁狭窄症がある時
「ガイドワイヤーを使用しないと左室内へはピッグカテーテルは入りません。」
と言っても過言ではありません。
なのでワイヤーを使用しますが、アングルタイプやJ型では左室内へは入れにくいのでワイヤーはストレートタイプを用います。
また、260cm~300cmタイプの長いものを使用した方がカテーテル交換が可能になります。
「Amplatz left:AL」や「Judkins right:JR」を用いると大動脈弁の方向に向きやすく、ガイドワイヤーを入れやすいです。
大動脈弁への向きやすさは AL>JR です。
マルチパーパスも良いようですが、実臨床で私自身は見たことが無いです。。。
ポイント
ストレートタイプのガイドワイヤーを使用する
ALやJR、マルチパーパスを用いてA弁に向けやすくする
カテーテル留置位置
左心室内での留置では2点のことに注意します。
- ピッグカテーテルを左室中隔方向に向けない
- 僧帽弁腱索に引っ掛けない
中隔へ向いているとよりPVCが出やすく、僧帽弁腱索に引っ掛けてしまうと僧帽弁逆流が起きてしまいます。
左室内へカテーテルが入ったらやや反時計回転に回すとよいです。
大動脈造影の時にはカテーテルが選択的に大動脈弁の冠尖へ入ってしまわないようにします。
弁輪の性状や逆流の評価などが不正確になってしまいます。
・左室造影する時に深呼吸をしてもらう
左室造影を実際にする時には患者さんに息を吸った時に息止めをしてもらいます。
その主な理由としては
- 横隔膜の陰影を減らすため
- 肺野を広げることで情報量が増える
があります。
より正確な診断を行うために深呼吸をしてもらい、吸った時に息止めをしてもらいます。
・左室造影の評価
計測値から左心の機能評価
左室造影の画像をトレースし、コンピュータソフトを用いると計測値から
- 左室拡張末期容積係数(LVEDVI)正常値:50~95mL/㎡
- 左室収縮末期容積係数(LVESVI)正常値:20~35mL/㎡
- 一回拍出量(SV)正常値:60~130mL
- 左室駆出率(EF)正常値:60~70%
を求めることができます。
造影剤が拡張期に充満している状態の造影写真と
造影剤が収縮期に充満している状態の造影写真を比べて計測します。
壁運動評価
AHA分類と聞くと冠動脈の分類で#1~#15を思い浮かべるかと思います。
実はAHA分類には左室壁でも使用されています。
「RAO view」と「LAO view」で見える左室壁を「1~7」で区切っています。
さらに、左室壁のAHA分類は冠動脈の支配領域に当てはめられています。
例えば、「左室壁のAHA分類segment1は前壁基部を反映しており、LADまたはLCXの近位部の側枝が灌流している」
とされており、このあたりの冠動脈が閉塞、狭窄すると左室壁のAHA分類segment1あたりの収縮が低下しているのを観察できることがあります。
こういった関係をまとめます。
ポイント
- segment1
前壁基部:LADまたはLCX近位部の側枝 - segment2
前側壁:LADおよび対角枝 - segment3
心尖部:LADの遠位部、RCAの後下行枝 - segment4
下壁:RCAの後下行枝またはLCX - segment5
後壁基部:RCAの後側壁枝やLCXの末梢 - segment6
心室中隔:LADの中隔枝、LCXや後下行枝 - segment7
後側壁:LADの中隔枝、LCXや後下行枝
壁運動が悪くなる所をみて、心筋梗塞や狭心症が起きている領域がわかります。
Hermanの分類による視覚的な左室の壁運動を評価するものがあり、左室全体が等しく収縮しているか見ます。
・正常:壁運動が正常な状態
・収縮機能低下:壁運動が損なわれているが全くないわけではない部分がある
・局所性無収縮:収縮期でも拡張期でも無収縮の部分がある
・動脈瘤(心室瘤):収縮期と拡張期の両方で壁運動が明らかに異なる部分がある
・収縮期奇異性膨隆:収縮期で心筋が外向きに動く部分がある
・奇異性収縮:個々の壁運動が同期して収縮していなく、時差を持って収縮している
・僧帽弁閉鎖不全の評価
僧帽弁閉鎖不全の評価は心エコー検査が主ですが、左室造影を行うことで視覚的に評価することができます。
評価には「Sellers分類」を主に用いてます。
この分類を簡単に言うなら
「逆流によってどの程度左房が造影剤で染まるか」を
4段階で評価します。
ポイント
Sellers分類
Ⅰ度:ジェット状の逆流が左房で見られるが、すぐに消失する
Ⅱ度:左房が染まるが、左室よりも薄い
Ⅲ度:左房と左室が同等に染まる
Ⅳ度:左房が左室よりも濃く染まる