酸素飽和度を検査することで肺血流量や心拍出量(体血流量)が分かります。
この2つの値を用いることでシャント率(短絡率)を検査することができます。
中隔欠損の重症度や手術適応などを決める適応基準にもなります。
特に小児領域(先天性心疾患)で重要視されています。
目次
・サンプリングから得られるデータ
メモ
Qp(肺血流量)1分間で肺に流れる血流量
Qs(体血流量)1分間で体に流れる血流量(心拍出量)
Rp(肺血管抵抗)肺でかかる血管抵抗
Rs(体血管抵抗)体でかかる血管抵抗
単位は
Qp, Qs:ml/min
Rp, Rs:mmHg/L/min(wood単位とも言われる)
※dynesを用いる場合はwoodに80倍かけた数値
(wood・80 = dynes・sec・㎝-5)
「成人領域では ”dynes” 小児領域では ”wood”」
が使用されることが多い
・各 計算式
Qs 体血流量
Qs = 酸素消費量 /{(大動脈血酸素飽和度 ー 混合静脈血酸素含有量) × 1.36 × Hb値 }×100
Qp 肺血流量
Qp = 酸素消費量 /{(肺静脈血酸素飽和度 ー 肺動脈血飽和度) × 1.36 × Hb値 }×100
Rs 体血管抵抗
Rs = (大動脈平均圧 ー 混合静脈圧) / 体血流量
Rp 肺血管抵抗
Rp = (肺動脈平均圧 ー 肺静脈平均圧)/ 肺血流量
酸素消費量
酸素消費量は文字通り酸素がどれだけ消費されたかを示します。
これをどうやって求めるか。。。
計算による推定値と実際に人が消費する量を調べる実測値があります。
単位はml/minです。
推定値は
男性は138.1−(11.19×log年齢)+(0.378×心拍数)
女性は138.1−(17.04×log年齢)+(0.378×心拍数)
で求まります。ただ、この式を毎回使用するのが面倒なため、表にしたものがあります。
それがラ・ファージの表です。
この表を用意しておけば、推定値がすぐ出せます。
実測値は実際に患者さんが吐いた空気(呼気ガス)を調べてどれくらい酸素消費が行われているか。
正確に測るには実測すべきですが、カテーテル検査中に行うのは現実的ではないため、行わない事がほぼ100%です。
ポイント
酸素消費量はラファージの表から推定値を使用する
ラファージの表
https://www.researchgate.net/figure/Figure-1-LaFarge-Table-showing-estimated-VO2-per-HR-for-patients-3-40-years-old_fig1_290989529より引用
体・肺血管抵抗
体血管抵抗や肺血管抵抗を計算する時には平均圧の差が必要になります。 ポイント 体血管抵抗では大動脈平均血圧と混合静脈平均圧の差
肺血管抵抗では肺動脈平均圧と肺静脈平均圧の差
血管抵抗を求める式は
電流や電圧でお馴染みのオームの法則からきています。
抵抗(血管抵抗)を求めるには電圧(血圧)を電流(血圧)で割ることで求まります。
人の体では末梢でどれだけ圧損失あったかを血流で割ることで血管抵抗が求まります。
血管抵抗 = 圧損失(差圧)÷ 血流
逆を言うと、血流がどれだけ血管抵抗に阻害されたかを示した値が圧損失(平均血圧の差)となります。
これらをまとめると
メモ
- 体血管抵抗を求めるには左心室からでた血液が右心房に戻ってくるまでにどれだけ圧損失(平均血圧の差)が生じたかを血流量(体血流量)で割ると求まります。
- 肺血管抵抗を求めるには肺動脈から肺に入った血液が左房に入るまでにどれだけ圧損失(平均血圧の差)を生じたかを血流量(肺血流量)で割ると求まります。
肺血管抵抗は3wood・㎡までが正常
シャントがある先天性心疾患患者の手術適応に肺血管抵抗が加味されています。
患者や、条件にもよりますがASDの成人疾患では5wood・㎡までは手術適応になります。
4-8wood・㎡では負荷試験を行ったうえ、治療が有益の場合は治療検討となります。
(8-)10wood・㎡以上では治療適応はないとされています。
なのでファローやASD, VSDなどの手術を予定している場合には肺血管抵抗を算出しています。
ポイント
?なぜ肺血管抵抗を算出するのか?
肺血管抵抗によって手術適応の指標になる
・Qp, Qs から求まるシャント率
Qp, Qsを用いることでシャント率が分かります。
シャント率は短絡率とも言います。
シャントは本来通るべき道を通らず目的地に進むことと言え、その本来通るべき道を通った量と通らず近道をした量との比率をシャント率といいます。
人の体でたとえば、右房から左房まで血液が流れるのに右室や肺動脈、肺を通って左房に進みますが、右房と左房との間に欠損(心房中隔欠損)があると近道してしまいます。
この近道をシャントと言い、その割合をシャント率と言います。
Qp/Qs 肺体血流量比
Qp/Qs (肺体血流比)は肺血流量を体血流量で割ることで肺血流量の増加、減少が分かります。
基本的には右室からの血流量と左室からの血流量は等しいため、基本的には「Qp/Qs ≒1」となりますが、シャントがあるとその値が大きく変わります。
多くは左心系から右心系(左房→右房など)のシャントがあり、「Qp/Qs > 1」と1を超えた値となります。
逆に右心系から左心系(右室→左室)のシャントがあると「Qp/Qs < 1」と1未満になります。
ポイント
シャント率
・Qp/Qs ( 肺血流量 / 体血流量 )
・異常が無ければQp/Qs≒1
・右心系と左心系のシャントの程度が分かる
また、このシャント率を出すことで心房中隔欠損(ASD)や動脈管開存症(PDA)などの重症度を診断します。
メモ
Qp/Qsで求まるシャント率でシャントの重症度を診断する
ASD(心房中隔欠損症)での QpQS
例えば、心房中隔欠損では左房から右房にシャント(短絡)があり、左房の圧が右房よりも大きいため下大静脈まで流れてしまいます。
そのため、混合静脈血として上大静脈と下大静脈の酸素飽和度の平均値を使用しません。
実際に、Qsを求める時に使用する混合静脈血酸素飽和度は次の2種類の値があります。
ポイント
使用する混合静脈血酸素飽和度の値
・上大静脈血酸素飽和度のみを使用
・mix vein = {(3 × SVC + IVC )/4}
mix vein:混合静脈血酸素飽和度
SVC:上大静脈血酸素飽和度
IVC:下大静脈血酸素飽和度
このどちらかを用いてQsを算出するのが一般的です。
ちなみに、ASDにおける有意な欠損を認める時のQp/Qsは1.5以上の場合となっています。
1.5以上であれば手術適応となり、開胸や経カテーテル的治療を行う場合があります。
ポイント
ASDではQp/Qsが1.5以上で治療適応
・サンプリングポイント
一般的なサンプリングポイントを列挙します。
- 上部 上大静脈
- (下部)上大静脈
- 上部 右心房
- 中央部 右心房
- 下部 右心房
- (上部)下大静脈
- 下部下大静脈
- 流入部 右心室
- 心尖部 右心室
- 流出部 右心室
- 主肺動脈
- 右肺動脈
- 左肺動脈
- 肺動脈楔入圧(場合によって左右で計測)
- 左心室
- 上行大動脈
- 下行大動脈(動脈管より末梢)
SVCやRAなどで3か所取るように書いていますが、心臓に構造的疾患が無ければ採血は1つのことが多いです。
ASDやVSD, PDAなどがある時に、その構造的疾患の位置をより正確に調べる時に複数個所採血するようになります。
また、心房中隔欠損がある場合では欠損部を通って左房(LA)や肺静脈(PV)の採血をすることもあります。疾患によってサンプリング数、場所は変わるので医師と確認をする必要があります。
一般的には上記部位での計測になりますが、その他の例を追記します。
人工導管 : Conduit コンデュイット
無名静脈 : Innominate vein イノミネート
動脈管 : Ductus ダクタス (正確にはductus arteriosus)
(半)奇静脈:(hemi) Azygos connection (ヘミ)アジゴス
肝静脈:Hepatic vein へパティック
などがあります。
引用,参考
2021年改訂版
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Sakamoto_Kawamura.pdf
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